前立腺がんの診断
腎泌尿器疾患で知っておいてほしいこと
第二部:前立腺がんの診断
前立腺がんの診断
奈良県立医科大学 藤本 清秀
前立腺がんは、精液産生や射精に関係する男性生殖器の前立腺に発生する悪性腫瘍で、良性の前立腺肥大症とともに泌尿器疾患のなかで重要な疾患となっています。前立腺は膀胱の直下に位置し、その中心を尿道が通るため尿路の一部であり、尿道周囲を取り巻く「内腺」と、内腺周辺を取り巻く「外腺」の二層構造になっており、前立腺がんは外腺を中心に発生します(図1)。
したがって、内腺が肥大することで排尿症状が出やすい前立腺肥大症と異なり、前立腺がんは自覚症状に乏しく、「検診による発見」が重要になります。わが国では、2015年に日本人男性のがん罹患者数予測で前立腺がんが第1位になりましたが、これは腫瘍マーカーであるPSA(prostate-specific antigen:前立腺特異抗原)検査の普及と前立腺がんの啓発活動が活性化により、早期に発見される前立腺がんが増加したことが理由となっています。前立腺がん検診ガイドラインでは、40歳を過ぎれば人間ドック、50歳を過ぎれば住民検診でPSA検査を受けることが推奨されています(図2)。
検診ではPSA検査と同時に、直腸診や超音波検査で異常がないかを調べますが、PSA値が基準値(4.0ng/mL)より高い場合は、確定診断のため針生検(針で前立腺の組織を採取する)による病理診断を行います(図3)。また、初回の針生検の結果が陰性であっても、PSA値の推移を見ながら必要に応じて針生検を繰り返す場合もあります。前立腺針生検は、簡単な局所麻酔によって外来での実施も可能ですが、数日間入院して腰椎麻酔や全身麻酔で行う方が痛みも少なく安全です。
針生検の方法には、穿刺するルートによって経直腸生検と経会陰生検があります。さらに、年齢、前立腺の大きさ、あるいは生検施行回数などによって採取する検体数が変わります。病理診断では、がんの有無だけではなく、グリソンスコアと呼ばれるがん組織の悪性度の評価も行います。また、直腸診とMRIなどの画像診断を組み合わせて臨床病期を確定し、さらにPSA値とグリソンスコアを組み合わせたリスク分類によって初期治療の選択を行います。
前立腺がん患者さんの生命予後は全般に良好ですが、日本では未だ約半数の患者さんがリスクの高いがんとなっています。
前立腺がんは進行すると椎体骨、骨盤骨、肋骨に転移しやすく、癌性疼痛や麻痺によって発見される場合もあります。現在、PSA値の異常により発見される無症状ないしは軽度の排尿症状を伴う早期がんが増加しています。一方、血尿や高度の排尿障害、骨転移による骨痛や下肢麻痺、リンパ節転移による下肢浮腫や水腎症など、顕著な症状を呈する進行がんは減少傾向にありますが、リスクの高いがんも一定の割合で存在します。
PSA値が非常に高い場合や排尿・排便症状、骨痛など自覚症状を認める場合は進行がんを疑い、胸部・腹部CTや骨シンチ検査などで、リンパ節や骨・他臓器への転移の有無も調べます(図3)。
前立腺がんの早期発見には、家族性・遺伝的要因と食生活を含めた生活習慣・環境など疫学・予防医学の視点も重要です。前立腺がんのリスク因子のひとつに遺伝的要因が挙げられ、家族性・非遺伝性前立腺がん家系(親・子・兄弟に1人の患者がいる)では前立腺がん罹患危険率が明らかに高くなります。また、遺伝性前立腺がんの確認も必要で、遺伝性前立腺癌の責任遺伝子もいくつかの報告があります。このような家族性や遺伝的背景は早期診断の鍵となります。
近年の長寿高齢社会においては国民の健康志向も高く、前立腺がんに対する社会的な啓発は重要で、泌尿器科の一般診療においても早期診断・早期治療のため、50歳以上の男性にはPSAスクリーニングをお薦めしています。また、前立腺がんの診断には、外来で施行可能な低侵襲な検査が多く、安心して受診していただけます。
前立腺癌の外科療法
関西医科大学 木下 秀文
前立腺癌は、この20年間で急速に増えている癌の1つです。2年ほど前には、前立腺癌の罹患率(癌にかかる頻度)が男性の癌の中で1位になりました。これは、日本人の寿命が延びたこと、食生活の欧米化など、いろいろな理由がありますが、前立腺特異抗原(PSA)という非常に有用な腫瘍マーカーが全国的に普及してきて、前立腺癌が疑われる人を、簡単に見つけることができるようになったためだと思われます。
前立腺癌は、特に早期では症状が出ないのが普通です。ですから、以前は、骨転移などが起こり、非常に進行して治らない状態になってから見つかることが多かった病気です。しかし、PSAの普及によって、早期前立腺癌がたくさん見つかるようになってきました。そうすると、前立腺癌の治療も一変し、治癒を目指す治療がたくさん行われるようになってきました。一般的に、早期がんに対して治癒を目指した治療には、外科的手術療法と放射線療法があります。どちらが、より優れているかは、がんの種類によっても異なりますが、前立腺癌では、どちらもほぼ同等だと考えられています。
では、ここからは、外科的手術療法についてお話ししたいと思います。前立腺は骨盤の奥深いところにあります。前立腺は、頭側は膀胱で、足側は尿道(陰茎)で挟まれたような場所にあります(図1a)。
前立腺癌に対する手術はこの前立腺をすべて(周囲についている精嚢という袋もとります)摘出することになります(図1b 点線部位)。
前立腺癌は前立腺癌内に複数の癌があることが多いですので、部分切除術は行いません。前立腺摘出後、尿道側の断端(穴)と膀胱側の断端(穴)を縫合して手術は終了となります(図1c)。
前立腺の周囲は血管が豊富で、以前は、摘出時に大量の出血をして、輸血が必要になることもしばしばありました。また、前立腺周囲には、勃起に関係する神経や、尿禁制(尿を我慢する)に関係する神経が多数走っていて、通常の摘出術では、これらの神経も前立腺と一緒に摘出することになります。また、前立腺の尿道(陰茎)側には尿道括約筋(尿を止めておく筋肉)があり、この一部は前立腺をおおっているため、前立腺を摘出する際にこれらの筋肉自体を傷つけることになります。
以上から、前立腺全摘出術の代表的な副作用には、1)出血、2)尿失禁、3)勃起障害があります。前立腺全摘出術は、これらの副作用をどのように軽減するか、様々な工夫を凝らしながら発達してきました。
そのような工夫の一つに勃起神経温存手術という方法があります。前立腺周囲には、骨盤の様々な神経が走っていますが、それらの神経の重要な働きに勃起があります。本来は、勃起神経温存手術の目的は、術後の勃起機能の維持なのですが、実際には、術後の勃起機能の維持は、術前の性的な活動性の高さに大きく関係していて、日本人の場合には欧米人に比べて、術後に満足のいく勃起が維持できる方は、少ない傾向があります。
そうすると、このような術式は、日本人にはあまり意味がないと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。“勃起神経”という言葉が良く使われるのですが、このような神経の中には、陰茎だけではなく尿道括約筋などにも作用し、術後の尿禁制にも影響があると推測されています。
ですから、私たちは、必ずしも勃起の維持にこだわらず、少しでも尿禁制に良い影響がある可能性を考慮して、可能な方には神経温存手術をお勧めしています。
前立腺癌の手術には、現在、3つの方法があります。1)開腹手術、2)腹腔鏡手術、3)ロボット補助下腹腔鏡手術です。お腹や骨盤の手術と言えば開腹手術で、大きくお腹を切り開いて臓器を摘出する、というのが当たり前の時代がありました。しかし、傷が大きいと、術後の痛みも強く、手術後の回復も遅いことが多く、また、お腹に大きな傷が残ります。そこで、30年ほど前から外科医が知恵を絞り、腹腔鏡手術という方法を開発しました。
これは、お腹にいくつかの小さな穴をあけて、二酸化炭素を注入して膨らませて、小さな穴から内視鏡(ビデオカメラ)や手術器具を入れて、手術する方法です。内部の様子はカメラから送られる映像をテレビ我慢で見ながら、手はおなかに入れず、手術器具をおなかの外から操作して、手術を進めます。前立腺癌も200年くらいから腹腔鏡手術が始まりました。
ニ酸化炭素を注入してお腹を膨らませると、二酸化炭素の圧力で、細かな出血を止めることができ、前立腺周囲をよく観察できるようになりました。さらに、カメラで見ると、例えば10㎝くらいの距離から前立腺を見ることができ、血管の走行や、神経の走行など、開腹手術で眼で見るよりも細かな構造がわかるようになりました。しかし、前立腺癌の手術は、前立腺を取るだけではく、尿道と膀胱の吻合(縫い合わせること)がありますので、非常に難易度が高く、トレーニングを積んだ術者にしかできない手術、という欠点もありました。
この欠点を解決したのが、ロボット補助下腹腔鏡手術です。
誤解のないように強調しておきますが、このロボットが自動で勝手に手術するわけではありません。経験を積み資格を持った術者が操縦して手術を行います。結局は人が手術するわけですが、腹腔鏡手術の良さをすべて残しながら、欠点であった技術的な難しさをダヴィンチがカバーしてくれるため、手術がずいぶん易しく速くなりました。今までよりももっと繊細な手術ができるようになりました。
先に書きました、神経温存手術も開腹術でも腹腔鏡手術でも技術が必要なのですが、ロボット補助下腹腔鏡手術では、手術器具が先生に動くので、比較的容易に可能であり、術後の尿失禁も軽くなっていると思います。
早期前立腺癌の根治的治療には手術療法と放射線療法があります(放射線療法については別項)。どちらにするか決めるのがなかなか難しいと思います。私自身は、前立腺が大きく(肥大症)、尿が出にくいなどの症状が強い方には原則として手術療法をお勧めしています。放射線では、癌は治っても肥大症は治らないからです。
そのほかの場合には、手術、放射線療法の各々に利点と欠点がありますので、担当医師と十分に相談して、治療を決めるのがよろしいと思います。
前立腺がんの薬物療法
大阪国際がんセンター 西村 和郎
従って、前立腺がんにおけるホルモン療法というのは、男性ホルモンの産生を抑えたり、男性ホルモンの作用をブロックする治療を指します。実際には、精巣から作られる男性ホルモンの産生を抑える注射薬あるいは精巣摘除術(去勢術)が主なホルモン療法です。注射薬は1か月ごと、3か月ごと、6か月ごとに皮下注射する3つのタイプがあります。いずれも脳内の下垂体から分泌され、精巣に作用するホルモンを抑えることによって、最終的に精巣における男性ホルモンの産生を抑えます。
また、男性ホルモンが前立腺がんに作用する部位(男性ホルモン受容体)をブロックする経口薬(抗男性ホルモン薬)を用いることもあります。このお薬は毎日飲むタイプのものです。ホルモン療法は単独で行うことも、放射線治療などと併用して行うこともありますし、転移のない状態の患者さんから転移のある進行した状態の患者さんまで幅広く適応されます。
去勢抵抗性になる機序として、ホルモン療法で抑えられている微量な男性ホルモンに対して、前立腺がん細胞が感受性を高めていることが考えられます。この微量な男性ホルモンの作用をさらに抑えるのが、新規抗男性ホルモン剤です。
新規抗男性ホルモン剤は、がん組織や副腎で産生される微量の男性ホルモンを抑制する薬剤と男性ホルモン受容体の働きを抑制する薬剤の2種類あります。
前者は、ステロイドと呼ばれる副腎皮質ホルモンを併用する必要があります。いずれの薬剤も経口薬で、副作用は比較的軽度の事が多いですが、前者では高血圧、低カリウム血症、肝機能障害など、後者では倦怠感、痙攣などに気を付ける必要があります。
去勢抵抗性前立腺がんの中には、新規抗男性ホルモン剤の効果が期待できず、抗がん剤が必要となる場合があります。2種類のタキサン系抗がん剤がありますが、いずれも注射剤で3週間に1回の投与間隔が標準的ですが、副作用の具合に応じて投与間隔を延長することがあります。
いずれの薬剤も投与数日後から10日後くらいは、好中球が少なくなるため、手洗い、マスク着用など感染症予防の注意が必要です。また、何か体調に急な変化が起きた時は、すぐに病院のスタッフと連絡が取れる体制にしておくことも重要です。
新規抗男性ホルモン剤と抗がん剤のどちらを選択するかは、患者さんの状態や前立腺がんの進行具合などに応じて判断します。抗がん剤は、副作用を心配するあまり、敬遠される傾向にありますが、治療効果を得るためには適切な時期に治療を開始することが重要です。
一方、前立腺がんは、進行すると骨に転移しやすいという性質を持っています。骨転移がさらに進行すると、痛み、骨折、神経麻痺などの有害事象が起こることがありますので、この様な有害事象を抑えるために、骨修飾薬(骨溶解を抑える薬剤)を使います(図3)。
しかし、顎骨骨髄炎や顎骨壊死という重篤な有害事象があります。これらを回避するためには、骨修飾薬の治療前に歯根のチェックを受けて、歯科治療が必要であれば先に済ませておくことが重要です。また、定期的な口腔内ケアもお奨めします。
前立腺がんの放射線療法
京都府立医科大学 沖原 宏治
はじめに)
早期の前立腺がんを診断された男性にどのような治療法を選択されるかは、わたくしたち泌尿器科医が個々の治療法の概要を、患者本人・家族の方に説明を行い、治療内容の決定を行います。早期前立腺がんの根治的な治療選択は、手術療法と、放射線療法の大きな選択肢があります。放射線治療の中でも、さまざまな選択肢があります。今回は放射線治療の特色や機種の進歩のなかでの、それぞれの照射方法の違いならびに併用療法の有用性を中心に解説します。
放射線治療の種類)
放射線治療の種類は、体外照射と、小線源療法(体内照射)に分類されます。体外照射は、体の外から回数をかけて、少しずつ前立腺、ならびに精嚢も含めて照射する方法です。小線源療法とは、前立腺内部に針を穿刺して、線源を埋め込む、または放射線を照射する方法です。体外照射もいくつかの種類があります。表1にまとめました。
ここでよく患者さんからお聞きする質問をあげます。
質問)なぜ、放射線治療の解説は放射線科の先生ではなく、泌尿器科の先生がするのですか?
我が国の放射線治療への流れは下記のとおりです。
組織診断→ 前立腺がんの進行度の評価(どこまで前立腺がんが進行しているか)→ 治療方針相談 (泌尿器科医担当し、放射線治療を選択された場合は、放射線治療に相談する)
最初の治療指針の相談は泌尿器科医が担当しております。泌尿器科医から放射線治療の概要説明を行い、放射線科医に依頼するのが通常です。泌尿器科医が前立腺がんの放射線治療の概要を理解することで、患者さんへの正確な指針決定のお役に立つことができます。
放射線治療の特徴・特長)
以下の点が放射線治療の特徴・特長と考えられます。
1)手術に比べて身体的な 負担が少ない。からだにメスをいれず、治療が可能であります。
2)手術が難しい高齢の 患者さんでも治療が可能
患者さんの健康状態も考慮して、放射線治療がふさわしいかを検討いたします。
3)短期入院(主に小線源治療)、あるいは通院治療(主に体外照射)で可能です。通院期間として、体外照射の場合は約2カ月の期間を要します。(より短期間で行う研究も進行しております)
4)痛みなどの症状緩和を目的に行うこともあります。
前立腺がんの遠隔転移でもっとも多いのが、骨転移です。骨の痛みの緩和目的で外照射を選択する場合も少なくありません。
照射線量と治療成績)
放射線治療(特に外照射治療)の成績の向上には前立腺に照射する、照射線量(グレイ:Gy)が重要であることがわかりました。海外の報告では、総線量が72Gy以上の方と72Gy未満の方の前立腺がん患者さんの予後調査を行い、72Gy以上の線量を前立腺に照射したほうが、有意に再発の危険性が低下しております。従いまして、外照射治療の技術改良には72Gy以上の照射が可能であることが重要です(表1)。
外照射療法の種類)
外照射法は、前立腺だけでなく周囲の臓器にも放射線が当たります。従って、周囲への影響を最小限に抑え、放射線のエネルギーが前立腺だけに集まるように照射方法が開発されてきました。現在、主流な治療法は強度変調放射線治療(IMRT)です。
1)強度変調放射線治療(IMRT) (図1)
IMRTの特長は、ひとつの照射方向からも、強弱のついたビームの作成が可能となりました。強弱ビームの使用により、より、前立腺に高い線量の照射が可能となり、腫瘍と正常組織の放射線量に差を付けることが出来ます。最大78Gyまで照射線量を高くすることが可能になりました。
2)粒子線治療
陽子線と炭素線(重粒子線)の2つに分類されます。体内のある一点で線量が集中、IMRTをしのぐ高い精度での照射が可能となりました。肉腫や悪性黒色腫にも有効、すなわち、従来のX線で殺せない癌にも効果ありとの報告もあります。陽子線は縮小傾向であるものの、高い建設費と敷地が必要となります。重粒子線照射の場合は、2-3方向から照射し、約1-2カ月の治療期間が必要となります。イオン源室、シンクロトロンの設備が必要であります。粒子線の特長は、体内深部でエネルギーがピークになり、がん病巣に合わせた領域に相対線量が高くなることです。また、IMRTと同様に周囲臓器への照射線量が少ないので、副作用が少なくなります。
IMRTで費用の概算として、100万-120万円程度(保険適応)です。粒子線治療は今まで保険適応外でしたが、最近保険適応となりました。
小線源療法:ブラキセラピーの概要)
前述のように、小線源療法は体内から照射する方法で、低線量率小線源治療と高線量率小線源治療があります。我が国では、低線量率小線源治療の普及施設が多い現状です。
1)低線量率小線源治療 (図2)
低線量率小線源治療は、純チタン製カプセルにヨウ素125を吸着させたアルミニウムワイヤーを密封したシード線源(長さ4.5mm 直径0.8mm.)を麻酔下に会陰的(股ぐら)から超音波で前立腺を観察しながら永久挿入する治療です。永久挿入は1度で完了します。海外の報告で、低線量率小線源治療とIMRTを比較し、若干、再発率、副作用は低線量率小線源治療がそれぞれ、低く、高いといわれてますが、両治療法ともに良好な治療成績です(治療を要するような排尿・排便に関する合併症の頻度はそれぞれ、1-2%, 0-1%程度です)。
2)高線量率小線源治療
高線量率小線源治療は、強い線源を一時的に体内に 留置する方法 で、手術は1日要し、治療期間は4-5日かかります。治療期間中はアプリケータが体に刺さったままです。一般的に低線量率小線源治療と比べ、侵襲は高く、早期の前立腺がんの中でも、悪性度の高い患者さんに選択されることが多いです。わが国において、約20施設において、本治療が可能です。
併用療法の有効性)
ここでよく患者さんからお聞きする質問をあげます。
質問)治療成績をより良くするために、外照射と小線源治療または放射線治療と内分泌療法(ホルモン療法)を併用できないのですか?
海外から、転移はありませんが悪性度の高い前立腺がん症例(高リスク症例)に対して、手術、外照射、低・高線量率小線源療法、内分泌療法の単独あるいは併用の治療成績の数多くの論文をまとめた報告があります。その結果、再発していない比率の比較で、外照射+低線量率小線源療法と、外照射+低線量率小線源療法+内分泌療法の組み合わせが良好な成績でした。
放射線療法の主な合併症
合併症を表2にまとめました。機械の進歩により、最近は重篤な副作用は非常に減少しておりますが、軽度の排尿、排便症状の自覚されることは、治療後、年単位で経過しましてもみられることがございます。ご心配なさらずに、泌尿器科・放射線科の主治医の先生にご相談なさってください。
前立腺肥大症の診断と治療
和歌山県立医科大学 原 勲
前立腺とは?
前立腺は膀胱の真下で尿道をドーナツのように取り囲んでいるくるみ大の臓器で役割としては精液を作っています。思春期になると睾丸から男性ホルモンが分泌されるようになりますが、この分泌された男性ホルモンが前立腺に働きかけることにより前立腺は精液を作る役割を果たします。
女性には前立腺という臓器自体が存在しませんので、男性にしかない男性ホルモンに依存した男性特有の臓器と言えます。前立腺は加齢とともに肥大することが知られており、膀胱の出口を圧迫することにより排尿困難や残尿感、夜間頻尿などの症状が現れます。こうした病態を前立腺肥大症と言います。
前立腺肥大症の診断
前立腺肥大症の診断では前立腺の大きさだけではなく症状の程度や実際の尿の出かたなどを総合的に判断することが重要です。また前立腺癌でないことを証明しておくこと(除外診断)も重要です(図1)。
① 症状の程度:
前立腺肥大症では肥大した前立腺が膀胱の出口を圧迫するためおしっこがでにくい(排尿困難)、おしっこの勢いが弱い(尿勢低下)などの閉塞症状が主体になります。閉塞の程度がひどくなるとおしっこが1滴もでない、尿閉と呼ばれる状態まで悪化することもあります。一方、頻回にトイレに行く(頻尿)やトイレに行くまでに尿が漏れてしまう(切迫性尿失禁)などの刺激症状も現れます。これらの症状を客観的に点数で評価するのが国際前立腺症状スコアと呼ばれる質問票です。7項目の質問に0―5点で答えるようになっており、35点満点となっており、20点以上を重症と判断します。
② 尿流動態:
実際の排尿の状態に関して横軸に時間、縦軸に1秒間に出る尿量をグラフとして表したものです。1秒間に出る最大尿量が一つの目安となっており、正常な男性では通常1秒間に最大20ml以上の排尿が可能です。この数値が10ml/秒以下になると尿のでかたが悪いと判断します。
③ 前立腺の大きさ
直腸から指を挿入すると前立腺の大きさをだいたいですが知ることができます。もっと客観的に評価するにはお腹から超音波という機械を使うことにより前立腺の大きさを計測することができます。通常の前立腺の大きさは10-20mlくらいで50mlを越えるとかなり大きくなっていると言えます。
④ 前立腺癌の除外診断
前立腺肥大症と前立腺癌はまったく独立して発症するため前立腺癌でないことを確認しておくことも重要です。最近では血液中の前立腺特異抗原(PSA)の量を測定することにより前立腺癌のスクリーニングを行うことが可能です。通常はPSAの値は4ng/mlとされていますが、前立腺癌になるとこの数値が上昇してきます。基準値である4ng/mlを超えた場合には前立腺の生検を行って癌の組織診断を行います。
前立腺癌の除外診断ができたら上記①〜③の項目に関して判定を行い重症度の診断をつけます。
前立腺肥大症の治療
治療としては軽症から中等症のものではお薬による治療が主体になります。お薬が奏功しない場合や、程度がひどく尿閉(尿が一滴も出なくなる)をきたすような場合では尿道から機械を挿入し前立腺を切除することもあります。
① 薬物治療(図2)
薬物治療の主体となるのはαブロッカーと呼ばれるもので。膀胱の出口の(膀胱頚部)の緊張を取ることによりおしっこを出やすくします。軽症の場合はαブロッカーのみの投与で十分コントロール可能です。また最近ではPDE5阻害剤もよく使われるようになっており特に刺激症状が主体の人に有効です。
実際に前立腺の体積が大きく、尿閉などの症状が現れるような場合には実際の前立腺の縮小効果が期待できる5α還元酵素阻害剤を使用します。前立腺肥大症で刺激症状が主体の場合でも第一選択薬はαブロッカーやPDE5阻害剤ですが、症状が強い場合抗コリン薬を使用することもあります。ただし抗コリン薬は排尿の力を弱める働きがあるため、残尿量が増えて病状が悪化することがあるため慎重に投与する必要があります。
かつては開腹して前立腺を摘出することが行われていましたが、昨今ではほとんどが経尿道的手術(尿道から内視鏡を挿入して行う手術)が主体となっています。経尿道的手術にも2種類あり、従来から行われてきた経尿道的前立腺切除術(TURP)は今でも幅広く施行されています。本術式では尿道の方から前立腺を少しずつ削るような手術のため大きな前立腺では時間がかかり出血量が多くなるのが難点でした。
最近行われるようになってきたレーザーを用いた前立腺の核出術では前立腺と周囲の被膜の間を剥離していくため、前立腺を一塊にして摘出することが可能です。このため出血量が少なく、術後の回復が早いなどの利点があります。
さいごに
前立腺肥大症は癌と異なり他の臓器へ転移をきたすようなことはありませんが、重症であるにも関わらず放置しておくと腎臓の機能が喪失されるようなこともあります。上記で説明したような症状が現れる場合には早目に泌尿器科医の診察を受けられることをお勧めいたします。
前立腺肥大症と夜間頻尿
滋賀医科大学 河内明宏
また下部尿路症状のうち生活の質に最も影響を及ぼす症状の一つです。臨床的には2回以上が問題となり、寝不足はもとより転倒による骨折のリスクがこの症状によって高くなると報告されています。また3回以上の夜間頻尿を有する高齢者は2回以下の高齢者に比べ、生存率が有意に低いとの報告もあります。
多尿の定義は1日の尿量が40ml/kg以上と多尿は、高齢者の場合は1日の尿量の1/3以上が睡眠中に出る場合を言います。膀胱蓄尿障害は通常は昼間の症状も伴います。1日の排尿回数が8回以上は異常と考えられ頻尿と呼びますが、これも排尿日誌で判断できます。
夜間頻尿とともに頻尿がある場合は過活動膀胱や前立腺肥大症などの泌尿器科的疾患の可能性があるため、専門的な検査が必要となってきます。睡眠障害に関しても不眠症のみでなく睡眠時無呼吸症候群など隠れた疾患がある可能性もあり、専門医の診断が必要です。
治療に関してはそれぞれの原因に対する治療となり、多尿、夜間多尿において水分摂取が多すぎる場合には生活指導のみで改善することもあります。また、多尿、夜間多尿の原因疾患として心不全、腎疾患、肝疾患なども考えられ、思わぬ重症疾患が発見されることがあります。
また、過活動膀胱や前立腺肥大症などは投薬で改善する可能性があります。たかが夜中にトイレに起きるだけと考えずに一度専門医を受診されることをお勧めします。