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第6回大阪腎泌尿器疾患研究財団主催
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第一部:夜間頻尿と過活動膀胱/男性・女性

夜間頻尿と過活動膀胱:女性

和歌山県立医科大学泌尿器科 原 勲

正常な排尿とは 1 回の排尿量が約 200〜400ml(コップ 1〜2 杯)で、排尿時間は約 20〜30 秒です。1 日の排尿量は 1000〜2000ml ですので 1 日の排尿回数にすると 5〜7 回、間隔にすると 3〜5 時間に 1 回程度となります。正常な排尿を行うためには膀胱に十分尿を貯める(蓄尿)ことができ、かつ尿意を感じた際にはスムーズに尿を出し切る(排尿)ことが必要です。泌尿器科では尿路を上部尿路(腎臓、尿管)と下部尿路(膀胱、男性では前立腺、尿道)に分類しますが、おしっこの出方に関する症状を下部尿路症状と呼んでいます。

さらに下部尿路症状は尿を貯めることに問題がある蓄尿症状と尿を出すことに問題がある排尿症状の2つに分類することができます。男性は膀胱の下に前立腺があり、かつ陰茎があるため尿道自体が長く排尿症状を呈することが一般的です。これに対し女性では蓄尿症状を訴えることが多いのが特徴です。「頻尿」と「尿失禁」はともに蓄尿症状に含まれます。頻尿とは日中の排尿回数が多すぎる(一般的には起床から就寝までの排尿回数が 8 回以上)ことを指します。

また夜間に排尿のため 1 回以上起きなければならない場合を夜間頻尿と呼んでいます。尿失禁とは自分の意思とは無関係に尿が漏れる状態を指します(図 1)が、後述するように尿失禁にはいくつかのタイプがあります。

下部尿路症状を訴える患者さんでは、背後に何らかの泌尿器科的な病気が潜んでいる場合とそうでない場合があります。急性膀胱炎や尿路結石あるいは膀胱癌や間質性膀胱炎と呼ばれる特殊な膀胱炎が原因で下部尿路症状を呈していることは稀ではありません。

こうした背後に潜んでいる疾患を見つけ出すには検尿を初めとする種々の検査が必要ですが、いずれにせ泌尿器科医の診察が必要です。排尿に関して異常を感じた場合にはまず泌尿器科の診察を受けることをお勧めします(図 2)。

女性の代表的な下部尿路症状のひとつが頻尿です。頻尿には尿量自体が多いため頻尿になる場合と、十分蓄尿できず 1 回の排尿量が減少するために頻尿になる 2 つのタイプがあります。前者の場合には泌尿器科の疾患と言うよりも尿量自体をコントロールする必要があるため生活習慣の改善等が必要です。あるいは稀な病気ですが尿崩症と言って尿量をコントロールするホルモンの異常により多尿を呈する場合もあります。

一方、蓄尿が十分できずに頻尿になる代表的な疾患として過活動膀胱(Over Active Bladder:OAB)があります。過活動膀胱とは一言で言えば、膀胱が過敏になった状態で脳血管障害やパーキンソン病など神経疾患に基づく場合(神経因性)とそうでない場合(非神経因性)に大別されます。頻尿以外の代表的な症状として尿意切迫感があります。

尿意切迫感とは、少しでも尿意を感じると我慢するのが難しくトイレに駆け込まなければならない状態を言います。この状態がひどくなるとトイレに間に合わず実際に尿が漏れてしますこともあり、これを切迫性尿失禁と呼んでいます。過活動膀胱は中年以上の女性に多く 40 歳以上の女性の 10 人に 1 人が罹患しているとする報告があります。

また過活動膀胱の患者さんの半数以上で実際に尿が漏れる切迫性尿失禁が認められるとされており、厄介な病気と言えます(図 3)。治療としては 1. 膀胱訓練や骨盤底筋体操などの行動療法、2. 抗コリン薬やベータ 3 作動薬などの薬物療法、3. 電気刺激治療などがあります。

過活動膀胱では切迫性尿失禁が問題となりますが、同じ尿失禁でも腹圧性尿失禁は異なった病態で起こるため注意が必要です。腹圧性尿失禁とは咳やくしゃみなどお腹に力がかかるとこらえきれずに尿が漏れる状態を言います。骨盤の底を支える筋肉(骨盤的筋群)が出産などを経験するうちに力が弱まってしまうことに起因します。分娩を経験した女性の約半数が腹圧性尿失禁を経験したとの報告があり、非常に頻度の高い病態と言えます。

治療としては膀胱訓練や骨盤底筋体操などの行動療法、電気刺激治療については過活動膀胱と同様ですが、薬物治療としては過活動膀胱とは異なったお薬(ベータ 2 作動薬)を用い
ます。またこうした治療法を用いても改善が認められない場合や尿失禁の程度が重度の場合には手術治療が選択されることもあります。このように切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁は病気の起こるメカニズムや治療法が異なるため2つのタイプを鑑別することが重要です。

さらに「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁」を同時に発症してしまう場合もあり、こうした病態を「混合性尿失禁」と呼んでいます。このように女性で認められる尿失禁はいくつかの病態が複雑に絡み合っている場合がありますので、やはり泌尿器科専門医に相談されることが重要です。

夜間頻尿と過活動膀胱:男性

大阪市立大学大学院医学研究科 泌尿器病態学 鞍作克之

夜間頻尿(やかんひんにょう)とは、夜間に排尿のため 1 回以上起きることと定義されています。男性の排尿には、前立腺(ぜんりつせん)と膀胱(ぼうこう)が大きく関係しています。前立腺は膀胱のすぐ下方にあり、尿道を取り囲んでいる男性だけにある臓器(ぞうき)です。このために、前立腺が肥大すると夜間頻尿の他にも、尿に関連する色々な症状が出現します。

前立腺が肥大する原因は完全には分かっていませんが、加齢による、男性ホルモンの変化が大きく関与しています。また、前立腺肥大症と肥満,高血圧,高血糖および脂質異常症との関連も報告されています。前立腺肥大症による尿の症状は様々ですが、大きく排尿症状(尿が出にくくなる症状)と蓄尿症状(尿が貯めにくくなる症状)に分けられます。前立腺肥大症の代表的な症状として尿勢低下(尿の勢いが弱い)、腹圧排尿(おなかに力を入れない尿が出ない)、残尿感(尿をした後に、まだ尿が残っている感じがある)、尿線途絶(尿が途中で途切れる)、頻尿(トイレが近い)があります。

また、膀胱が原因で、男性の夜間頻尿や尿失禁の症状をきたす病気として、過活動膀胱(かかつどうぼうこう)があります。尿意切迫感(急に尿意をもよおし、我慢できない)が男性の過活動膀胱の代表的な症状です。

以下 Q&A 形式で、夜間頻尿と過活動膀胱について解説します。

Q:前立腺(ぜんりつせん)はどこにありますか?(表 1)

A:前立腺は膀胱のすぐ下方にあり、尿道(にょうどう)を取り囲んでいる男性だけにある臓器(ぞうき)です。前立腺が肥大することにより、尿道を圧迫して、男性の頻尿(ひんにょう)と尿失禁(にょうしっきん)の原因となります。

Q:前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)の原因とは?

A:前立腺が肥大する原因は完全には分かっていませんが、加齢による、男性ホルモンの変化が大きく関係しています。また、前立腺肥大症と肥満,高血圧,高血糖および脂質異常症との関連も報告されています。

Q:前立腺肥大症の症状とは?(表2)

A:前立腺肥大症の代表的な症状として、尿勢低下(尿の勢いが弱い)、腹圧排尿(おなかに力を入れない尿が出ない)、残尿感(尿をした後に、まだ尿が残っている感じがある)、尿線途絶(尿が途中で途切れる)、頻尿(トイレが近い)、夜間頻尿(夜中に何度もトイレに起きる)、切迫性尿失禁(急に尿意をもよおし、もれてしまう)があります。

Q:前立腺肥大症の合併症(がっぺいしょう)とは?(表3)

A:前立腺肥大症が進行することにより、尿閉(尿がしたいのに出ない)、肉眼的血尿(赤
い尿がでる)、膀胱結石(膀胱の中に石ができる)、尿路感染症(尿がにごり、熱がでる)、
腎後性腎不全(腎臓のはたらきが低下する)などの合併症がおこることがあります。

Q:男性の過活動膀胱(かかつどうぼうこう)の症状と原因とは?

A:尿意切迫感(急に尿意をもよおし、トイレまでおしっこが我慢できない)と頻尿(尿の回数が多い)が過活動膀胱の代表的な症状です。夜間頻尿も過活動膀胱の症状の一つです。 高齢男性の過活動膀胱の最も多い原因は、前立腺肥大症です。

Q:神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)とは?

A:神経の病気によって、排尿・蓄尿(ちくにょう)の状態が悪くなった状態です。脳卒中などの後遺症や糖尿病の影響で、神経の回路に障害が起きて頻尿、尿失禁の症状を起こします。

過活動膀胱の治療について

兵庫医科大学泌尿器科 兼松明弘

1)過活動膀胱とはなんでしょう?

膀胱のはたらきは尿を一定の時間たくわえておくことです。尿がたまることによって膀胱の壁が引き延ばされると、尿がしたい感じを伝える神経(感覚神経)が刺激されそれが背骨のなかにある脊髄に伝わります。

脊髄では感覚を伝える神経と排尿を膀胱の排尿筋に命令する神経が連結しており、尿のしたい感じ→脊髄→膀胱の収縮という「排尿反射」がおこるようになっています。ふだんはこの「排尿反射」を大脳や脳幹というところにある排尿の司令塔にあたる「排尿中枢」が抑えこむことで尿をためています(図1、著者作成)。過活動膀胱はこの「排尿反射」の暴走です。感覚を伝える神経の活動が強くなれば頻尿となり、排尿筋への命令が暴走すると尿が本人の意志に反してもれてしまいます。

2)過活動膀胱はなぜおこるのでしょうか?

過活動膀胱の原因としては、脳—脳幹—脊髄といった司令塔(中枢神経)がきちんと働かないためにおこるものがあります(図1)。脳の血管がつまったり、出血したりした後に発生する状態が代表的ですが、たんなる神経の老化でもおきます(図2、著者作成)。司令塔による反射の抑制がきかなくなることで、排尿反射がおきやすくなると考えられます。

膀胱そのものが原因と考えられるケースもあります(図3、著者作成)。膀胱はふくろの形をしていますが、内側に「尿路上皮」という細胞の層が、外側には「排尿筋」の層がとりまいています。尿路上皮は尿をまわりにもれないようにためるバリアーの役割を主に担っていますが、尿がたまるとともに引き延ばされるとその刺激を尿意として感覚神経に伝える役割も持っています。そのため尿路上皮が過活動膀胱の原因となることがあります。

排尿筋は、尿がたまるときにはゆるんで広がり、排尿するときには急速に収縮して尿を押しだします。排尿筋には自動的に収縮する能力があり、それがつよいと尿がもれる原因となります。

3)過活動膀胱はどのくらい多くの人にみられるのでしょうか?

過活動膀胱は年齢とともに大勢の人におこるのが知られています。小学生のころは昼間に尿を漏らすことは 5-10%にみとめられますが、10 から 30 歳代ころはほとんどの人でおこりません。過活動膀胱の症状の有る方は 40 歳では 5%未満です。しかし、40 歳代ころから年代が進む毎に増えていき、70 歳代では 3人に1人と非常によく見られる状態になります(本間之夫. 日本排尿機能学会誌.2003 2.Stewart, W. F.:World J. Urol. 2003)。

4)過活動膀胱はどのように診断するのでしょうか?

診断のためにはまず尿の検査をおこない感染や出血のないことを確認します。くわしいおはなしをもれなく聞くためにはアンケート形式の問診票がべんりで、男女ともに「過活動膀胱症状スコア」をもちいます。ほかに頻尿や尿失禁の原因として排尿したあとに尿が残ってないことや、膀胱や前立腺の癌などの悪性疾患がないことの確認が必要です。女性では尿漏れの原因として、尿道のゆるみによる「腹圧性尿失禁」の要素がないことも確認します。

そのためには最初は泌尿器科で診察を受けるのが望ましいです。よりくわしい検査として、排尿した時間と一回に出た量をコップにとって紙で記録する「排尿日誌記録」があり、夜間にだけ尿がたくさんでる「夜間頻尿」などを区別するのに役立ちます。

5)過活動膀胱はどのように治すのでしょうか?

治療の主体は薬による治療です。「抗コリン剤」という薬が以前から使われてきており、これは感覚と収縮をともに抑えます。そのために副作用として排尿しにくくなることがあることに注意する必要があります。緑内障のある患者さんは、医師に緑内障であることを伝え、判断してもらってください。そのほか口の中の乾きや便秘がおこることがあります。

「ベータ 3 刺激薬」という薬は比較的最近使われるようになったものですが、感覚を主に抑える薬剤です。薬の治療はあくまで症状をとるのが目的であり、中断すれば症状が再発することが多いです。

6)さいごに

過活動膀胱ではお薬の治療が一般的ですが、根本的に治るわけではありません。また多くの方にみられますが症状の程度には差がありますので、治療をするのか、なにを選ぶのかという選択はことなります。

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